ピカナ

拷問具には2種類あります。1つは拷問の為に専用に作られる拷問具で、もう1つは日常的に使われている道具を拷問に流用した拷問具です。前者はファラリスの雄牛や苦悩の梨が、後者は鞭やヤギ責めのヤギ、現代の拷問ではアイロン責めのアイロンなどもこちらのパターンですね。今回紹介するピカナ(Picana)は、後者の拷問具でした。

家畜用の電気棒

ピカナとは、元々は家畜に対して使われる道具です。言うことを聞かなかったり、こちらの指示通りに動かない家畜に痛みを与えて、思うように動かすために使われていました。鞭の一種に牛追い鞭という物がありますが、それの電気を使うバージョンだと思えば良いでしょう。鞭で叩くにはある程度の力が必要ですが、ピカナではスイッチを入れるだけで簡単に苦痛を与えられるので、便利に使われたことでしょう。

 

これで終われば畜産で使われる単なる便利な道具ですが、それで終わらなかったからピカナは拷問具になりました。つまり、この道具を家畜ではなく人間に使うことを思いついてしまった人がいるということです。この拷問具の威力を知るには、スタンガンを想像するのが最適でしょう。低電圧と高電流を同時に実現するこの道具は、人間に耐えがたい苦痛を与え、かつ死に至らしめることがほとんどありません。非常に理にかなった拷問具だと言えます。

 

 

ピカナという拷問具

電気を使った拷問と言えば、南米で使われたパリージャという拷問具があります。あちらとの違いはいくつもありますが、最大の違いは電極の位置でしょう。スタンガンと同じく、ピカナでは2つの電極が非常に近い場所に配置されています。これは、体のごくごく1部分にしか電気が流れないということを意味します。電気には、電極から電極に流れるという性質がありますからね。

言うまでもないことですが、電気を体に流した場合、より長い距離を電気が流れたほうが体へのダメージは大きくなります。また、電気の通り道に重要な器官があれば、ダメージの重症度は飛躍的に向上します。アメリカ合衆国には死刑の執行具として電気椅子がありますが、この道具では受刑者を確実に死に至らしめる為、電極を頭と足首に着けています。体のほぼ全てを電気が流れ、かつ脳という重要な器官を通ることで確実に死刑が執行できるわけですね。

逆に、拷問具であるピカナでは犠牲者を死に至らしめるのはもちろん論外ですが、不用意に重症を負わせることも避けなければなりません。目的の自白を得る前に、内臓を電気が通った傷が原因で死なせてしまったなんてことがあってはならないですからね。

ここで、ピカナの距離が近い電極が役に立ちます。よほど特殊な場所に使わない限り、ピカナによる電流が流れるのは体の表面の皮膚のみです。電気が流れるのは体のごく一部であり、もちろん内臓に電気は届きません。ということは、命を落とすような傷を与えずに済むということです。

もしかしたら、ダメージが大きくないならば拷問具としての効果が薄いんじゃないかと思うかもしれません。しかし、それは誤りです。この拷問が使用されているのは現代。異端審問のように1つの拷問は1度しか使えないなどという制約は存在しません。1度に与えられる苦痛が少ないならば、10回でも20回でも繰り返すだけです。となれば、強力だけど1度に致命的なダメージを与えてしまう拷問よりも、そこまで強力ではないが致命傷を与えない拷問のほうが優秀だということになります。

……もっとも、そこまで強力でない、と言っても十分な激痛を与えられる拷問ですけどね。

 

 

歴史

最初にピカナが拷問として使われたのは、言い換えると、家畜に使われていたこの道具を人間にも使えると気づいた人が現れたのは、1932年のアルゼンチンのブエノスアイレスです。この場所で、最初にピカナが使用されたという報告がありました。……というより、他の地域ではこの拷問具が使用されたという報告がほとんどないようです。

ただし、これはピカナがほとんど使用されない拷問具であるということを意味しません。扱いやすさや携帯性の良さを考えると、使用しているけど単に見つかってないだけという可能性が非常に高いですからね。もっとも、チリのように専用の電気拷問具があるような場所だと、本当に使ってなかった可能性はありますが。

また、ピカナという名前の拷問具は使っていなくとも、現在ではスタンガンという非常に手軽に使えて、かつ安価に手に入る道具があるわけですから、こちらを使っている組織というのは随分と多いと想像します。最近読んだ本に、中東ではスタンガンを使った拷問が日常的に行われているという記述がありました。実際、1日後には何が起こるか分からない中東のような地域では、大掛かりな拷問具より、スタンガンのような手軽な拷問具のほうが重宝されることは想像に難くありません。

資料の少なさを信じるなら、ピカナという拷問具については、もしかしたら本当にほとんどの地域で使われていないのかもしれません。しかし、似たような道具であるスタンガンが実際に拷問に使われています。その性質を考えるに、電気を使う拷問はまだしばらくは歴史から無くなりそうにありません。