魔女狩りの3つの手順

現代の感覚ではなかなか納得しにくいことですが、魔女狩りは魔女裁判、つまり法に基づいた行為でした。

そのため、魔女を見つけてから処刑するまでの行程には法で決められた手順が存在します。好き勝手に個人の判断で行って良いものではなかったということですね。

では、具体的にどのような手順で魔女狩りは行われていたのでしょうか? 具体的に見ていきたいと思います。

 

魔女を処刑する3step

前提として、魔女狩りは異端審問の中から生まれたものです。そのため、魔女狩りには異端審問と似た手順がいくつも存在しました。

例えば、魔女狩りは以下の手順で行われるのですが、

  1. 逮捕
  2. 尋問
  3. 処刑

これらは異端審問でも同じように行われていました。

今回はこの3つについて詳しく掘り下げようと思います。

 

……より詳しい話をすると、これら3つの他にも細々とした手順がありました。

例えば、魔女が逮捕された時点でその財産を財務官が調査するという行程がありますし、尋問と処刑の間には判決を下すという手順が存在します。

ただ、これらは魔女狩りも主目的、すなわち魔女の発見とその存在の消滅に直接関わるものではないんですよね。なので、今回は扱いません。

 

逮捕する為の3つの方法

魔女が裁かれるには、まず逮捕される必要があります。魔女を逮捕する方法には、大きく3つの方法がありました。

それが、自首、告発と密告、そして噂です。

自首とは

現代の日本でもそうですが、犯罪を犯した者の中には、自ら罪を認めて出頭することがあります。自主をする理由は様々にあるでしょう。例えば、罪悪感に耐えられなくなったからとか、減刑を求めるためとかです。

ただし、魔女狩りにおいては自首をする人は少なかったと考えられます。その理由として、減刑が無いことと、無罪を勝ち取れる可能性が極めて低かったことが挙げられます。

近世ヨーロッパにおいて、魔女であることは非常に重い罪でした。文字通り、存在することすら許されないほどに。

魔女狩りにおいて、魔女だと判明した被告に下される刑はたったの1つ。火刑だけです。自主しようがどうしようが、減刑はありません。つまり、自分から魔女だとカミングアウトしたらその時点で死刑なわけです。

また、自分が魔女だという疑いがかかったときに、身の潔白を証明するために出頭することも得策ではありません。

実際、自身が潔白であることを証明する為に裁判所へ出頭した老婆が、自身が魔女であるという嘘の自白をして処刑されたという記録があります。教会は、自身の潔白を証明するために積極的に自首することを勧めていますが、こんな事例があっては自首なんてできないですよね。

告発や密告とは

これらの方法は、第三者が告げ口することで魔女の存在が明るみになるというものです。

ここで注意したいのが、これらの告発や密告はおそらく嘘であるということです。もちろん、何かしらの見間違えが原因で、相手が本当に魔女だと思い込んで告発する人もいたでしょう。ですが、魔女狩りの結果処刑された魔女が数万人を超えることを考えると、これほど大量の犠牲者がすべて勘違いのせいで告発されたと考えるのは無理があります。

ではなぜ、勘違いでもないのに告発や密告があったのか? 密告の理由としては中傷や報酬目的の可能性が挙げられます。

考えたくないことですが、個人的に気に入らない相手を魔女として告発、処刑させたいということは普通に起こったでしょう。さらに、悪名高い魔女発見人マシュー・ホプキンスのように、魔女を発見することで得られる報酬目当てに隣人を売った人がいないとは言えないはずです。このような理由から、密告が行われたのでしょう。

では、告発はなぜ起こったのか? ここで言う告発とは、自分の身分を明かしたうえで、被告人の処罰を求める意思提示のことです。

つまり、自分が告発したことを被告に知られることになります。そうなると、告発した人は告発された人に恨まれることになりそうですよね? しかし、実際には告発を行った人々は、その後のことなど考えはしなかったでしょう。

なぜなら、告発を行ったのは魔女として拷問され自白を強要された人たちだからです。

拷問は自白が得られるまで続きます。その自白の中には、自分が知っている魔女の名前を挙げるというものがありました。

つまり、心当たりがなくとも、拷問から逃れるために自分の知っている名前を告発するということが起こったわけです。

噂とは

魔女狩りにおいて、最も多く魔女を見つけた方法がこの噂によるものでした。

現代日本で噂を理由に容疑者を逮捕なんてしたらとんでもないことになりますが、魔女狩りではこの暴挙が許されました。なぜこんなことが許されるのかと、疑問に思うかもしれません。その理由には、魔女という罪は立証が困難であるということがあります。

普通の犯罪のように明確な証拠が手に入り難いから、噂のような些細な出来事から容疑者を得ることが正統だとされたわけです。現代を生きる私達とは明らかに違う価値観ですね。ですが現実として、魔女であるという噂が流れた人は魔女の疑いがあるとして拷問されました。

そして魔女であることを自ら自白することになるのですから、救われない話ですね。

 

尋問で行われた3ステップ

逮捕された魔女は尋問を受け、自分の罪を自白することになります。ここで言う罪とは、魔女として行った様々な行為のことを指します。一例を出しましょう。

  • 魔女になってから何年になるか
  • 魔女になった理由
  • 悪魔に何を成約したか
  • サバトではどんなことをしたか? 参加した悪魔や他の悪魔の名前
  • 放棄の柄に塗った軟膏の成分は何か

などなど、他にも様々なことを尋問されますが、そのいずれもが答えようのないものばかりでした。

犠牲者にとってさらに悪いことに、なんでも適当なことを言って罪をでっち上げれば良いと言う訳には行きませんでした。尋問をする際、尋問官たちには(正しいかどうかは別にして)何かしらの根拠があって行っています。そして、それに沿った回答でなければ自白として認められませんでした。

心でも読まなければ、答えようがないですね。そして答えを当てられずにいると、尋問では埒が明かないと判断されて拷問が行われることになります。

この拷問は、大きく分けて3つの段階に別れます。

第1段階

魔女の疑いをかけられた犠牲者は、まずこれを受けることになりました。ここでは犠牲者を全裸にし、拷問具を見せて脅すことから始まります。素直に自白しなければこれを使って拷問するぞ、と。

さらに、鞭打ち、指締め、ラックなどによる拷問もこの段階で行われます。これらの拷問は予備拷問と呼ばれ、これ以降に行われる拷問とは区別されます。何故わざわざ区別するのか? それはこの段階での自白が「拷問によらない自白」として扱われるからです。

私には拷問に見えるこれらの行為がなぜ拷問扱いされないのか不思議でなりませんが、とにかくそのようになっていました。

このことは後世の調査で、拷問をしていないのに自白した魔女が多く存在するという誤解を生む原因になりました。上でも書いたとおり、魔女が強要された自白は答えようの無いことばかりです。拷問を受ける前にすべての問いに答えられた犠牲者がいた可能性は否定しませんが、間違いなくごく少数だったはずです。ほとんどの犠牲者は、少なくともこの予備拷問を受けながら自白をしたと考えられます。

第2段階

第1段階の予備拷問で口を割らなかった、そして割れなかった犠牲者に対して、ここから本格的な拷問が始まります。

ここでは吊り上げや吊り落とし、骨砕きなどが行われます。この段階での拷問の特徴として、身体の欠損が起こるような拷問は行われないということがあります。

脱臼や骨折、火傷などは容赦なく負うことになりますが、それでもまだ5体満足ではあります。なぜこんなことを言うのかというと、次の段階では5体満足ではいられなくなるからです。

第3段階

この段階になると、拷問がより残虐性を増します。

手足の切断、熱したペンチにより肉を引きちぎる、焼きゴテ、鉄の靴などの命に関わる拷問が行われました。というより、おそらく当時の医療ではこれらの拷問を行えば犠牲者の命はなかったはずです。拷問とは苦痛によって犠牲者に自白を強要する行為です。死なせてしまっては意味がありません。そういう意味で、これらの方法は拷問としては不適当だといえます。

実はこの第3段階の拷問の資料はかなり少なく、いまいち実態がつかめません。思うに、ここまで来る前に大抵の犠牲者は自白した、もしくはここまで来た犠牲者は自白する前に死んでしまったのではないでしょうか。

 

処刑

魔女であることを自白した犠牲者は、火刑に処されることになります。魔女たちは処刑される直前に、自身が犯した罪を、処刑を見物に来た公衆の面前で改めて自白させられました。これにより、魔女は拷問に関係なく、自ら罪を認めたということになります。

そして、ここで自白した犠牲者は絞首により命を失ったあとに火で焼かれました

逆に、ここで自白しなかった犠牲者は生きたまま火で焼かれました

魔女狩りではありませんが、中世フランスの英雄ジャンヌダルクは生きたまま火あぶりにされました。これは、彼女が処刑の直前に自身の罪を自白しなかっということを意味します。

日本ではたいていの場合で火葬が行われるので実感が湧きづらいですが、キリスト教圏では火葬とは残酷なものでした。なぜなら、キリスト教の教義によると人は最後の審判の日に復活するのですが、そのためには肉体が残っている必要があるからです。

火刑によって灰になれば、身体が存在しないので復活できなくなってしまいます。つまり、魔女を火刑に処すというのは、この世に存在することを許さないという意味があったわけです。とはいえ、拷問でさんざん痛めつけられた犠牲者にとっては、復活できないほうが幸せかもしれませんが。

 

これで魔女狩りの1連の手順が終了します。魔女は火刑に処され、世界から異端が1つ消える。当時の異端審問官たちは喜んだことでしょうね。