ISの人質

拷問に関する本と言えば、拷問の歴史や道具についての解説など、つまり第三者の視点から書かれたものがほとんどでした。少なくとも、私の持っている拷問関連の本はほとんどがそのようになっています。

拷問という文化を俯瞰的に観察し、考察することが目的の書籍ですから当然と言えば当然ですけどね。

なので、今回紹介するこの本のように、拷問を被害者の視点から見る本というのは貴重だと思います。

 

本の構成としては、著者であるプク・ダムスゴー氏が、シリアで過激派組織に拘束された青年ダニエルと、その周囲の人々から取材した内容を元に執筆したノンフィクションとなっています。

正直な話、私はあまりこの本をおすすめしません。というのも、あんまり拷問の話が出てこないんですよね。

 

考えてみれば当然の話なのですが、この本はISISによって捕虜にされたダニエル青年の捕虜としての生活や、残された家族のつらく苦しい生活に視点を当てた本です。なので、そもそも拷問に重きを置いていません。

もちろん、拷問に関する話はちゃんと出てきていました。捕虜としての生活を語る上で、絶対に欠かせない要素ですからね。

特に、シリアのような中東で行われている拷問というのはかなり情報が少ないので、実際に行われた拷問を、実際に拷問を受けた人間の言葉で伝えてくれるこの本の情報はとても貴重です。

 

ただし、この実際に拷問を受けた人間の言葉というものには注意が必要です。なぜなら、主観的な情報は感情的な物になりがちだからです。

この本でもそのような部分が見られました。例えば本の中で『シリアでは拷問が芸術の域にまで高められている』ということが書かれています。

しかし、実際に受けた拷問の記述を見てみると、それらは単純な殴る蹴るなどの暴行が大部分を占めており、むしろ原始的で稚拙な拷問であるという印象を受けました。

ただ、水分と休息を同時に奪うという拷問の描写があるのですが、これは確かに高度だと思います。実際、ダニエルはこの拷問により幻覚を見て、自殺を(未遂ですが)行うほどに追い詰められました。

自殺を許す環境には疑問がありますが、人間を死にたいと思うほど追い込めたわけですから、それほどまでに効果的な拷問だったということでしょう。

 

そんなわけで、一部には興味深い内容もありましたが、全体としては正直期待していたほどのものではありませんでした。

勘違いして欲しくないのですが、私のように拷問の詳細をこの本に期待するのが悪いのであって、この本自体は全く悪くありません。

むしろ、テロ組織の捕虜にされた人間がどんな生活を送るのか、どんな精神状態になるのか、そしてなにより、残された家族や周囲の人間がどんな生活を強いられることになるのか。これらを知るにはこの上ない作品だと思います。