くすぐり責め

くすぐりという行為がどんなものなのか分からない、という人はほとんどいないと思います。
実際にくすぐられた、またはくすぐったという経験のある人も多いでしょう。

そんなくすぐりを使った、くすぐり責めという拷問があると言ったら、そんなものが拷問になるのか? と疑問に思うでしょうか。
それとも、確かにくすぐりは拷問だ、と思うでしょうか。
他の拷問と比べると、くすぐりは拷問としてはあまり効果的でない印象を受けます。
実際、他の拷問と比べるとくすぐり責めが拷問として行われたという記録は少なく、あまり多用された拷問であるとは言えません。
しかし現実として、くすぐりは確かに拷問として利用された過去がありました。

方法

情報の少ない拷問

拷問として行われたくすぐり責めを調べていると、その資料の少なさに気づかされます。
さらに言えば、くすぐりの方法について詳細に書かれている資料は全くと言って良いほど見つかりませんでした。

これはおそらく、くすぐり責めという拷問があまり使用されなかったからだと思われます。
とは言え、わかりませんでしたでは記事にならないですからね。
そこで今回は趣向を変えて、くすぐり責めで行われたであろう方法を、人体の性質などから考察してみようと思います。

くすぐる場所

効率的にくすぐりを行おうとするならば、敏感な場所をくすぐることが重要になることは分かると思います。
具体的に言えば、脇の下や足の裏などは多くの人がくすぐったいと感じる場所でしょう。
このような場所の共通点として、神経が多く集まっている場所の付近であるということがあります。
神経が多いということはより感覚が鋭いということですから、くすぐりの効果も高いわけですね。

もちろん、人間の体はくすぐられる為にわざわざ神経の多く集まる場所を作っているわけではありません。
諸説あるようですが、これは何らかの異変、例えば毒蜘蛛が肌を這っているといった、すぐに気づかなければ命にかかわる状況にすぐに気づくことができるように進化した結果だと言われているそうです。
自分を守るための進化で身につけた性質が拷問に使われるというのは、皮肉ですね。

ところで、 このくすぐったい場所というものには個人差が大きいものです。
人によっては、全く違う場所がくすぐったいということもあると思います。
この個人差がなぜ生まれるのかを調べてみたところ、どうやら良くわかっていないようですね。
さらに言えば、神経が多く集まっているはずのわきの下や足の裏などでさえ、人によっては全くくすぐったくない人もいます。
精神的な作用が関係しているかもしれないという意見もあるようですが、こちらもまだはっきりとした理由が分からないのだとか。
人体の不思議ですね。

より効率的なくすぐりの為に

くすぐりを行うとき、あまり大きな力を使うと痛みが生じるため逆効果になります。
なので、なるべく弱い力でするほうが、くすぐったいという感情を強く引き出すことができます。

そこで、効率的にくすぐりを行うために道具が使われることがありました。
実際に拷問で使われたものとしては、鳥の羽があります。人が指よりも弱い力でくすぐることが出来るので、理にかなっていますね。

他にも、油を使うことも効果的です。これは肌の摩擦を減らすことが出来るので、より繊細な刺激を与えることにつながります。
ただし、拷問においては油を使ったという話は聞かないですね。

また、精神的な要素も効率化に関係します。
原理は不明ですが、くすぐる相手と親しい間柄である、つまり信頼関係があるとくすぐりの効果は上がるそうです。
しかしこれは、拷問の場では全く関係のないことでしょう。

この手の話題は、拷問の世界よりもむしろSMの世界で熟成されているように思います。

効果

くすぐりが拷問として行われたということは、くすぐりには拷問としての能力があるということです。
でなければ、拷問として採用されることはあり得ないですからね。
さらに言えば、より直接的な苦痛を与えられる拷問が数多くある中で、わざわざくすぐりで拷問するからには相応のメリットがなければなりません。
では、具体的にどのような能力とメリットがあるのでしょう。

くすぐりの能力その1:窒息

くすぐりによって起こることでまず真っ先に思い浮かぶのは、大笑いすることと、それによる窒息ではないでしょうか。
実際にくすぐられた経験がある人なら、笑いすぎて息ができないという状況を容易に想像できると思います。
また、息ができないという状況の苦しさは改めて説明するまでもないですね。
この苦痛を強制的に味合わされるということは、確かに拷問であるといえるでしょう。
ちなみに、くすぐりにより窒息死することはないらしいですね。
これは、拷問としては利点です。

くすぐりの能力その2:貧血による頭痛

くすぐり責めの効果として真っ先に思いつくのは窒息ですが、他にも引き起こされる苦痛があります。
『収容所群島』という本によると、くすぐり責めによる苦痛を示す表現として“脳にドリルで穴をあけられるみたいで、耐えがたい苦しみである。”とあります。
詳細が分からないので憶測になりますが、おそらくこれは貧血により起こる頭痛だと考えられます。

窒息により息ができないということは、体に酸素が入らないということを意味します。
このダメージを最も大きく受けるのは、酸素を大量に必要とする脳です。
なので、少しでも多く血を送って酸素を送ろうということで、血管が太くなります。
すると、血管が付近にある神経を圧迫して頭痛を引き起こす、ということが起こります。
この現象自体は日常生活でも起こりえるものですが、拷問として利用された場合、その苦痛は想像を超えるものになるのでしょう。

くすぐり責めを使うメリット

くすぐり責めのメリットは、大きく分けて2つあります。

  • 傷をつけないからばれにくい
  • 比較的容易かつ迅速に回復する

事故が起こらない限り、くすぐりによって犠牲者が傷つくことはありません。
また、後遺症が残るということもありません。少なくとも見た目には。
精神的な後遺症、つまりトラウマが出来てしまう可能性はあり得ますが、そんなことを執行人は気にしなかったでしょう。

このようなメリットを見ていると、くすぐり責めは傷をつけられない相手に対して仕方なく行われる拷問だったのではないかという印象を受けます。
実際この印象は間違っていないようだということが、歴史を見るとわかりました。

歴史

日本

くすぐり責めで最も有名なのは、もしかしたら日本で行われたものかもしれません。
より正確に言うと、くすぐり責めは江戸時代の遊郭で行われました。

『 日本拷問刑罰史 』によると、“吉田町の夜鷹宿やメッタ町の比丘尼長屋では、縛って鳥の羽でくすぐるというくすぐり責めが私刑として行われてい”たと書かれています。
“鳥の羽”を使っているというのは面白いですね。
指でくすぐるよりも効果的だということを、当時の人も経験的に知っていたのかもしれません。

遊郭において、遊女は商売道具です。
そのため、罰を与えるときにも傷をつけるような真似は基本的にはできませんでした。
そのような状況では、十分に苦しめることができ、なおかつ傷つける心配のないくすぐり責めは罰として適していたということですね。
これは罰として使われたくすぐり責めですが、拷問というものが身近なものを使って行われるものであることを考えると、拷問が必要なとき、同じようにくすぐりが使われた可能性は十分に考えられます。

ちなみに、同じく罰として使われていた方法には他にも唐辛子責めというものがありました。
これは、唐辛子をいぶした煙を、拘束して身動きできないようにして浴びせるというものです。
この場合でも、大変な苦痛を与えることができ、しかも体に傷はつきませんね。

ドイツ

『The Men With The Pink Triangle』 という本があります。
著者はハインツ・ヘーガー(Heinz Heger)で、彼は第二次大戦中にフロッセンビュルク強制収容所で迫害を経験し、それを元にこの本を書きました。
その中で、彼は自分の同胞がナチスの刑務所の守衛にくすぐり拷問を受けているのを目撃したことがあると書いています。

以下に引用したのは英語版Wikipediaにて記載されていた内容です。
この中で、収容所に入れられた人物がくすぐり責めを受ける描写が書かれています。
私はまだこの本を読んだことがないのでこれ以上の詳細は分からないのですが、いずれ機会があればちゃんと読んでみたいものですね。

The first game that the SS sergeant and his men played was to tickle their victim with goose feathers, on the soles of his feet, between his legs, in the armpits, and on other parts of his naked body. At first the prisoner forced himself to keep silent, while his eyes twitched in fear and torment from one SS man to the other. Then he could not restrain himself and finally he broke out in a high-pitched laughter that very soon turned into a cry of pain.

https://en.wikipedia.org/wiki/Tickle_torture

ロシア

上でも少し触れましたが、『収容所群島』という本で、ロシアの秘密警察により収容所内で行われた拷問について触れられています。
その数ある拷問の一つとして、くすぐり責めは行われました。

拷問を受けた容疑者が「頭に穴をあけられるような苦痛だ」と表現した苦痛ですが、拷問全体を通してみると、この苦痛自体はそれほど大したものではなかったのではないかという印象を受けます。

というのも、当時行われた拷問は鉄環による頭部の締め付け、酸で満たした浴槽に入れる、真っ赤になるまで熱した鉄棒を肛門に挿入するなど、明らかにより大きな苦痛を与えられるものばかりだからです。

実際、この本の中でも、くすぐり責めは拷問の間に行われる休息を兼ねたものであるというような表現がされています。
もちろん、この休息というのは「拷問を行う側にとっては」という意味ですが。

漢王朝時代での中国

『The A-Z of Punishment and Torture』という本の中で、中国では漢王朝の時代に、貴族への罰としてくすぐり責めが行われたと書かれています。
これは拷問というより、処刑の一種ですね。

ただでさえ情報の少ないくすぐり責めの中でも、この件については輪をかけて資料が無く、どれくらいの期間、またどのような方法でくすぐったのかという詳細は不明です。
ただ、貴族への罰として行われたというところから、体に傷をつけないようにするという狙いがあったのは確かでしょう。

ヨーロッパ全体

スペイン式くすぐり機

ネット上のいくつかのサイトでは、スペイン式くすぐり機がくすぐりの拷問だと解説されています。
しかし、これは誤りです。
この図書館(サイト)でも紹介していますが、 スペイン式くすぐり機は犠牲者を鋭い爪で引っかく拷問具です。
これをくすぐったいと思える人は、そうそういないでしょう。

ヤギ責め

古代ローマから続くヤギ責めは、その性質からくすぐり責めの一種であるとされることがあるようです。
しかし、くすぐったいのは最初だけだったでしょう。
もっとも、皮膚が破れ肉がすり減り、骨が見えてもなおくすぐったいと感じていたのなら話は別ですが。

過去のヨーロッパでくすぐり責めがあったとは考えづらい

これらの拷問が行われた当時のヨーロッパ(より正確にはキリスト教圏ですが)では、苦痛によって真実が告白されるという考えがありました。
つまり、拷問には苦痛を与えることを目的にしていたという側面があります
そのような時代背景を考えると、他にいくらでも苦痛を与えられる拷問がある中で、わざわざくすぐりを拷問として使ったとは考えにくいですね。

まとめ

特殊な拷問

くすぐりは責めは、実際に行われたことのあるれっきとした拷問の1つです。
ただし、その行われた場所や状況を考えると、特殊な状況で限定的に行われたということがわかります。
特殊な状況というのはつまり、犠牲者に傷が残らない必要があるということです。
他にいくらでもより効率的に苦痛を与えられる拷問がある中でわざわざくすぐりが利用されたのは、この点において優れていたからです。

現代向きの拷問……かもしれない?

くすぐり責めについて調べている中で、私の中で1つ、浮かんだ考えがあります。
というのは、くすぐり責めは現代向きの拷問なのではないか? ということです。

もちろん、現代において拷問は禁止されていますから、現代向きというのは現代でもやって良い拷問であるという意味ではありません。
やって良いわけではありませんが、仮に何か理由があって拷問を行うとなったとき、ある程度の苦痛を与え、なおかつ拷問の痕跡が残らないくすぐり責めは都合がよいのではないかということです。

くすぐりは躾? 拷問?

気になったので「くすぐり 躾」で検索してみたところ、子供をくすぐることによって言うことを聞かせたと言った話がいくつか見つかりました。
私から見れば、これはくすぐるという手段によって子供に望み通りの行動を強要するという、拷問の定義に当てはまった行為です。

もちろん、当人には拷問をしているなんて意識はないでしょうし、もしかしたら、くすぐられている側もそれが拷問になっているとは思っていないかもしれませんけどね。

過去には拷問にも使われていたということを知ると、くすぐるという行為によって躾を行うというのは、ぞっとしないものがあります。

参考書籍

『 ピンクトライアングル』ハインツ・ヘーガー
『 拷問刑罰史 』名和弓雄
『 収容所群島 』アレクサンドル・ソルジェニーツィン
『The A-Z of Punishment and Torture』Irene Thompson
Tickle torture_Wikipedia