スペインのロバ(木馬責め)

上の画像を見たとき、もしかするとあなたは「これはロバではなく三角木馬ではないのか?」と思ったかもしれません。

確かに、この拷問具は日本で行われた木馬責めや、現代でもSMプレイで利用される三角木馬によく似ています。
実際、木馬という名称で使用していた地域もありました。

ではなぜロバなのかというと、他の拷問具の中に木馬という名前の拷問具があるからです。
同じ名前の拷問具が2つもあるとややこしいので、このサイトではこの拷問具のことをロバと呼ぶことにします。

形状と使用方法

スペインのロバ(Spanish donkey)  にはいくつかの名称があるので、まずはそれらを羅列してみましょう。
木馬(wooden horse),スペインのロバ(Spanish donkey) , 三脚の皮膚切断装置(cavaletto squarciapalle),  また、フランスではChevalet(小さな馬)とも呼ばれています。
要するにロバ、もしくは馬なわけですが、上でも書いたようにこのサイトでは単純にロバと呼びます。

ロバは三角形の木製または金属製の台(まれに両方の素材を利用したものも存在する)と、それを支える4本の足で形成された拷問具です。
また、犠牲者を支えるための縄や、足につける重りがセットになっていることもあります。
この拷問具の使い方はいたってシンプルで、犠牲者の下半身を裸、もしくは全裸にして三角形の台に乗せるだけです。
ちょうど、馬やロバにまたがったような状態になりますね。

しかし、動物に乗るのとは違い、これに乗った犠牲者は本人の体重で股間に激痛を受けることになります。

まず、三角形の頂点はや皮膚の柔らかい会陰の断裂と、それによる大量失血を引き起こします。
これだけでも十分に拷問ですが、そのまま拷問を受け続けると、股間への負荷が骨まで達し、仙骨の骨折によるひどい痛みを起こします。

また、ここから先は拷問の範疇を越えますが、さらにロバに乗り続けると犠牲者が裂けることすらありました。
言葉だけで十分すぎるほど恐ろしいですね。

股間への責めが大きな苦痛になるということは、なんとなく想像ができると思います。
ですが、なぜ大きな苦痛になるのか? と聞かれると、そういえば何でだろうと首をかしげる人が多いと思いのではないでしょうか。
そこで、大きな苦痛を感じる2つの理由を説明してみます。

1つ目の理由は、股間には多くの神経が集まっているからです。

例えば、指先に針を刺したところを想像してみてください。
特殊な人を除けば、たいていの人は痛いと感じるはずです。
これは、指先にある神経が刺激され、その刺激が電気信号となって脳に伝わり、伝わった信号を脳が「痛い」と判断するからです。
詳しい原理を省けば、このような仕組みで人間の体は痛みを感るように出来ています。

さて、針を刺すなどの方法で神経が刺激されることを侵害受容反応と言いますが、この反応には「オールオアナッシングの法則」が働きます。
専門用語なので難しく聞こえますが、簡単に言えば、神経は「痛い」か「痛くない」かのどちらかのサインしか送ることができないということです。
ちょっとだけ痛いとか、ものすごく痛いとか、そのような器用な伝え方はできないということですね。

では、痛みの大きさはどうやって伝えるのか?
答えは、伝える神経の数です。
単純に言うと、1つの神経が伝える痛みの刺激より、2つの神経が伝える痛みの刺激のほうが2倍痛いということです。
わきの下をくすぐられるのと、手の甲をくすぐられるのとでは、くすぐったさの感じ方が違いますよね。
それと同じことです。

そして、股間は神経が多く集まっている場所だからより大きな苦痛を感じるというわけです。

2つ目の理由は、股間への痛みは関連痛を起こすということです。

関連痛とは、病巣の周囲や病巣から離れた場所に発生する痛みです。
関連痛が起こるメカニズムはまだはっきりとはしていませんが、痛みのサインを神経が脳へ送るとき、脳がどこから送られてきた痛みかを勘違いすることが原因だといわれています。
難しそうな話ですが、カキ氷を食べて頭痛がする、という経験をしたことがありませんか?
これが関連痛です。

股間、より正確には会陰部というのですが、この部位の痛みはよく関連痛を引き起こすという特徴があります。
詳しい原理まで知る必要はありません。つまり、ロバによる責めは股間のみだけではなく、全身に苦痛を与える拷問になる、ということですね。

これら2つが、股間への拷問は他の部位に対する拷問よりも多きな苦痛を犠牲者に与えられる理由です。

ちなみに、ただでさえ厳しいロバによる拷問ですが、執行人はより苦痛を大きくするため、足を引っ張ったり重りをつける、熱した灰をかける、火を近づけて犠牲者を炙る、などの拷問を追加することが出来ました。
残酷な話です。

歴史

この拷問具は中世のスペインで発明されました。
女性に対して使うことを想定した拷問具らしく、男性的な形状をしているものも存在するようです。
ですが、男性に対して使われたという記録も残っています。
男女どちらでも、この拷問具による責めは苦しいものとなったでしょう。
この拷問にかけられる犠牲者の罪状は、異端や魔法を使ったことでした。

ところで、この拷問具の名前はロバですが、この命名の理由にはキリスト教の世界観が関わっていると思われます。
というのも、イエス・キリストが十字架に磔になる前に、エルサレムに入城するときに乗っていたのがロバであるという逸話から、ロバに乗るのは恥ずべき事という風潮があるのです。
なので、ロバという名称には、乗せられる犠牲者を辱めるという目的があったのでしょう。
私にはあまりピンとこない話ですけどね。

日本のロバ、木馬責め

最初にも書きましたが、今回の拷問具はロバよりも木馬と呼ぶほうが親しみがあると思います。
これは、SMプレイで使われる三角木馬や、過去に行われた木馬責めが原因だと思われます。
実は日本の木馬の歴史は古く、戦国時代にまでさかのぼると考えられます。
もともと、日本の木馬責めは馬具を掛けるための台である蔵の台を利用して行われていました。
戦国時代にこの拷問が行われたことを考えると、身近にあったものを利用したというところでしょう。
また、江戸時代にキリシタンの疑いがある人や、年貢を納めていない人に対する拷問に使われました。

ちなみに、江戸時代後期には1742年に公事方御定書が制定されて拷問の規定がなされましたが、この中に木馬責めは存在しません。
思うに、犠牲者に対する負担が大きすぎて拷問としては不適だとされたのではないでしょうか。
実際、ヨーロッパでは犠牲者が裂けたらしいですからね。
死なせてしまっては拷問として不適切です。

アメリカ版のロバ

19世紀、アメリカでは南北戦争が起こっていました。このとき、キャンプ・ダグラスと呼ばれる拠点で捕虜に対する拷問にロバのような拷問具が利用されたという記録が残っています。

その拷問具はモーガンの小屋(Morgan’s mule)と呼ばれていました。
地面から数十〜15フィート(4.6メートル)の高さの2つの支柱と、それらの間に吊り下げられた細い尖った台から構成されていました。
かなり高さがありますが、形状はロバと同じですね。
当然、捕虜に対する拷問という不当な扱いは問題になったようで、報告書が残っています。

“There were some of our poor boys, for little infraction of the prison rules, riding what they called Morgan’s mule every day. ”

-Milton Asbury Ryan, Co. G, 8th MS Regiment

翻訳してみました。

「かわいそうな少年たちは、ほんの少し刑務所の規則を違反すると、モルガンの小屋と呼ばれる物に毎日乗らされました」

-ミルトン アズベリー ライアン Gカンパニー 第8回ミシシッピ連隊

と言ったところでしょう。

現在は拷問等禁止条約やジュネーブ条約により拷問は禁止されていますから、私たちがこのような拷問を受けることはない……と、願いたいものです。