異端者のフォーク

異端審問が激しかった地域の1つに中世のスペインがあります。そこでは自白を引き出すため、様々な拷問具が使われました。異端者のフォーク(Heretic’s fork)も、その為に誕生した拷問具の1つです。

名前のとおりフォークのような形状をしたこの拷問具は、しかし拷問具としては変わった役割を持っていました。
一体どういうことなのか? 解説していきましょう。

異端者のフォークとスペイン異端審問

この拷問具はスペインの異端審問で使われていたわけですが、そもそも異端審問ってどんなものか知っていますか? 現代に生きていると基本的にお目にかかることがないので、どんなものなのか知らない人は多いと思います。

そこで、Wikipediaで調べてみたところ以下のように説明されていました。

異端審問(いたんしんもん、ラテン語: Inquisitio)とは、中世以降のカトリック教会において正統信仰に反する教えを持つ(異端である)という疑いを受けた者を裁判するために設けられたシステム。

つまり、異端者を見つけるための取り調べを異端審問と呼ぶわけですね。日本で言えば、キリシタンを見つけるために行った踏み絵のようなものだと考えればイメージしやすいと思います。

上の文で「取り調べを異端審問と呼ぶ」と書きましたが、現代の取り調べと決定的に異なる点が1つあります。それが、この取り調べでは拷問が使われたということです。

現代なら、取り調べで拷問なんてしようものなら速攻でニュースになって特番を組まれることになるでしょうね。このようなところからも、当時と現代では拷問に対する意識が全く違うということが分かります。

 

異端者のフォークを使用された人々

中世において、拷問は法に基づいた取り調べです。そのため、拷問官は犠牲者に対して正しい手順で拷問を行う必要がありました。そんな手順の中には、拷問を受ける犠牲者の罪状によって行う拷問を変えなければならないという決まりがあります。この異端者のフォークもそうですが、誰にでも好きなように拷問してよいわけではなかったんですね。

この拷問については、主に不敬者や嘘をついた者、そして神の名をみだりに口にした人々に使用されました。口は災いの元と言いますが、この拷問を受けることになったのは何かまずいことを言ってしまった人達だということですね。

ちなみに、神の名をみだりに口にした人々がなぜ異端扱いされるのかというと、これはMoses(モーセ)の十戒に書かれているからです。“Thou shalt not take the name of the Lord thy God in vain.”(汝の神、主の名をみだりに唱えてはならない。)という部分ですね。

たまに、映画で覚えたのであろう“Oh my God!”“Jesus Christ!”などのセリフを普段から頻繁に使う人を見ることがありますが、中世スペインなら異端者のフォークで拷問されていたかもしれませんね。

 

形状と使用方法

この拷問具は、細長い鉄の棒の両端がフォークのようになった形状をしています。フォークナイフってありますよね。あれの両方共がフォークになっているものを想像してみてください。それの真ん中あたりに、首に巻いて固定する用の革ベルトを設置したのがこの器具です。シンプルな作りですね。

そして忘れてはならないのがその装飾。細長い棒の部分には“アビウロ”という文字が書かれています。この意味は後で説明しますね。

利用方法は至って簡単。胸骨の上のくぼみと顎の当りにこの器具を固定し、外れないように革ベルトを首に巻きつけるだけです。たったこれだけのことが拷問になるってのがすごいですよね。

実際にはこれ単体で使われるのではなく、他の拷問と併用されていたようです。特に、自力で外せないようにするための手枷、犠牲者を直立させるための拘束具は必須だったでしょうね。

この拷問を終わらせる方法はただ1つ。アビウロと発言することだけでした。

 

原理

この拷問を受けた犠牲者は、首を限界まで上を向けた状態から動かせなくなります。もしかしたら、単に首を固定するだけの拷問なんて大して苦しくないと思うかもしれませんが、それは間違いです。

この拷問では強制的に上を向かせられることになりますが、この上向きの傾きが半端ではありませんでした。唾を飲み込むことすら痛みを伴うほどです。当然、喋るなんてもってのほかだったでしょう。
そんな状態ではろくに動くこともできないですし、眠ることすらできなかったでしょう。また、この拷問具は他の拷問を行うまでの繋ぎとして使われることもあったようです。

ですが、何よりも問題になるのがこの拷問具をつけられると喋れなくなることです。
上でも書きましたが、この拷問を終わらせる方法はただ1つ。アビウロと言うことだけです。だというのに、喋ろうとすればフォークの部分が体に刺さる。
痛みに耐えてアビウロと言うか、言えずに処刑されるか。どちらにしろ、痛みを強要してくる拷問具なのは間違いないですね。

アビウロ(Abiuro)

この拷問具に書かれているアビウロという言葉には“撤回する”という意味があります。思い出してほしいのですが、この拷問を受けるのは何か言ってはいけないことを言ってしまった人でしたよね。
だから、その発言を撤回すれば反省したということで許されるわけです。

逆に、アビウロと言わなければ反省していないということで処刑されました。この場合、異端者として処刑されるので火刑に処されることになります。
もっとも、アビウロと発言できたとしても、それで無罪放免というわけにはいきません
自身の罪を認めた犠牲者は、その罪の重さに比例した重さの罰を受けることになります。重いものになると、死刑になるものもありました

どっちにしろ死刑なら自白した意味がないじゃないか! と思われるかもしれませんが、自白をした犠牲者は火刑に処される前に首を絞めて死なせてもらえることになっていました。
生きたまま火に焼かれて死ぬよりは、よほど楽だったと思われます。